萌える小唄解説【地廻り】
私が専攻してお習いしていた小唄というものがありまして。
その中でもお気に入りの曲が何曲かあるので、それを紹介します。
設定に萌える「地廻り」
ご紹介します。「地廻り」という曲です。
地廻りは 方に手拭い 柾の下駄
回らんせ格子先 あだな潮来を唄わんせ
今宵は化けて上らんせ
うちの首尾は どうじゃいな
地廻りってなんやねん?何しとる人?
地廻りとは、辞書で意味を調べますと
①ある盛り場を根城としてぶらぶらすること。また,そこをぶらついているならず者。②米・野菜・酒などを近辺から町へ送ってくること。また,その品物。 「 -の米」③いつも近在をまわって品物を売り歩くこと。また,その商人。 「 -の商人」
という意味が出てきますが、ここでは①。ブラついてるならず者、という意味になります。
さてこのならず者、一言にならず者とは言いましても一種のやくざ者のような輩です。つまりその区画を取り仕切るやくざ者の若衆だったわけですが、いつでも強面でいるとそれはそれでいけない、親しみももたせながら甘やかさぬように町民に接していたんだとか。
ヤクザもんだけど、センスはいい。そりゃイケメンだ。
その地廻りは、肩に手拭いという超ラフさを醸し出しながらも、足には柾の下駄を履くという超ハイセンスっぷりを遺憾無く発揮します。これはイケメンの匂いがプンプンするぜえーーーー!!!!
柾の下駄?何がすごいの?
と思われますが、今で言うところのオールデンみたいなもんです。高価だけれどもはき心地は抜群!これ一足でおしゃれ上級者!
柾の下駄は何と言っても美しく揃った木目!まっつぐ(江戸口調)に揃った気持ちいい木目が特徴ですので
「うん、買おう!」
と思ってもすぐ手に入る代物じゃございません。なんてったって、そんな綺麗な木目が取れるまでには木を育てるのに何年もかかるんですから。そんな高価な下駄を履いているのに、肩に手拭いって…銭湯帰りかよって話なんです!
そのイケメンの地廻りが行くところはイイ女のところだよ
まあそんな強面だけれどもおしゃれ上級者なやくざ者のイケメンがね、回るんですよ。格子先を!
格子先って言いますと、それは色街!遊郭の周りなんかも見回っています。
格子先で遊女をひやかしたり、ときには見張ったり…遊郭で働く女性がほっとくわけないじゃないですか、こんないい男。番頭にとっては鼻つまみ者の地廻り、だけれども遊女には大人気だったそうです。その様子がもう目に浮かびます。
その遊女たちも、時折番頭の目を盗んではどうしても地廻りに座敷に上がってもらいたい!そんな気持ちが「今宵は化けて(座敷に)上がらんせ」というくだりになるわけです。
最後の「うちの首尾はどうじゃいな」ってのは、遊女の首尾(番頭や遣り手ババや他の遊女に見つからないか)と、地廻りの方の首尾(奥さんや親分に座敷に上がり込んだことがバレないか)…両方の意味にかかってるんですねえーーーー!!!!
いやいや、情景が目に浮かぶような小唄じゃありませんか。
この曲は時間に直してもたったの1分半!短い曲なのです。
平山蘆江先生…グラッツェ!
私の語彙や解釈の問題もあって、小唄解説はなかなかに難しいのですが…。
神田の古本屋でたまたま見つけた平山蘆江先生のご著書「小唄解説」に感謝しながら締めくくりたいと思います。