歌舞伎の鑑賞経験がない人は「ワンピース歌舞伎」をどう思うのか
先日、興奮とともにお届けした「シネマ歌舞伎 スーパー歌舞伎Ⅱワンピース」の感想ですが
興奮とともに書き終わり、「面白かったぜーーーー!」と周囲に吹聴しまくっていたところ、ふと思ったことがあります。
「これって、歌舞伎未鑑賞の人にとっては面白いのか…?」
という疑問でした。
今回はもう少し歌舞伎の世界に足を踏み入れ、再度ワンピース歌舞伎の魅力に迫ります。
- ちなみに私の歌舞伎鑑賞スペック
- それを踏まえた上でのワンピース歌舞伎の良かった点
- 歌舞伎未鑑賞の反応は予告編だけで「…うーんちょっと厳しくない?」
- ワンピース歌舞伎で”実写化”を考える
- その他映画の感想
ちなみに私の歌舞伎鑑賞スペック
初めての歌舞伎は10歳の時、両親に連れられて見に行きました。演目はよく覚えていない!
私は小学校低学年の頃から日本舞踊を習っていましたので、やはり歌舞伎や日本舞踊に触れる機会は、同年代のクラスメイトよりも何十倍も多かったと思います。その後は三味線に転向しましたが、三味線でも当然歌舞伎や日本舞踊の舞台に触れる機会は多く、やはり私は「詳しくはないけど、詳しい部類」に入るのじゃないかなー…と僭越ながら思います。
ですが、実際の歌舞伎鑑賞経験は20回程度で、決して多くはないのですが…。
それを踏まえた上でのワンピース歌舞伎の良かった点
歌舞伎の様式美を押さえている
1、ツケ
歌舞伎にはいくつか決まり事があって、例えば戦闘シーン(いわゆる”立ち回り”)や、登場人物が走って出てくるところではツケと呼ばれる効果音が出ます。(これは舞台上手にツケの効果音担当者がおり、板で打ち鳴らしてバタッバタバタッ!と音を出します。)
これが一種の効果音となって役者をさらに際立たせ、目立たせるのです。
歌舞伎の演目にもよりけりですが、このツケがない場合も多く、あってもワンピース歌舞伎ほどバタバタ音は入りません。ツケ担当の方のご苦労やいかに…
2、見得(みえ)
もう一つは「見得」と呼ばれるものですが、これは役者が
「決まったアアアーーーーーーーーー!」と思った時にやるのですね。
まあ、「俺、今決まってるわー。」って、アピってるってことなんですけれど。
目力と首の動きで表現しています。
これ、ワンピース歌舞伎の中でもたっくさん出てきます。もう、役者全員見得切りすぎです!(普段こんなに切らないからって、切りすぎでしょ!)
それもそのはず、ワンピースは登場人物が際立つシーンが多いので、それに合わせて見得切りまくってるんですから、多くなるのも当然です。
3、六方(ろっぽう)
もう一つ「見得」とよく似たものに「六方」というものがあります。
六法というのは東西南北に加え天と地をさして、合わせて六方。全方向という意味です。
六方はワンピース歌舞伎では、解りやすいところで、ボン・クレーが多立ち回りをした後花道から舞台袖へ引っ込む時にやっています。(これがまたあの衣装と相まって見事だったんだ。)
「アタシを見なさいよっ!!!!」
ってな勢いで大きく手を動かしながら、足も大きく開き、手足の大きな躍動を見せつけながら歩き、駆けていく様です。
「歩く」と「走る」なんて、ただの日常動作でしょう?でもこれを六方を踏ませることによって
- ものすごい存在感の人物(ボン・クレーだよね。)
- 凄まじい精神状態にある様子(ボン・クレーだよね。)
を表しているんです。
役者が「役で遊んでいる」と感じるところが見ていて楽しい
先ほど紹介したように、歌舞伎は決まった様式美があって、それに則って上演しています。これを体得するには厳しく長い稽古が必要になります。
ワンピース歌舞伎でキャラクターが立っている、佇んでいる姿一つにも、日本舞踊や歌舞伎の立ち姿が伺えます。たったこれだけを体得するのに、何年もかかるんです。
以前ドラマにもなった「ぴんとこな」では、若い歌舞伎役者の二人が描かれていますが、厳しい稽古の様子も描かれていましたね。厳しい、キツイ、キズつく…もう3Kどころではない世界です。
ワンピース歌舞伎に出ている役者は、20代の若い役者も多く出ていますが、彼らも血の滲むような努力をしています。ただ、長年培ってきた揺るぎない土台があるからこそ「役で遊ぶ」ことが出来ます。
それをスクリーン越しに強く感じたのは何と言っても、イナズマとボン・クレーの立ち回りシーンです。演じるのはイナズマは中村隼人、ボン・クレーは坂東巳之助です。
彼らはまだ20代ですが、家柄もあって普通の役者よりも厳しいしきたりを背負っていたり激しい稽古を積んでいます。ですから動きに迷いがない。積み重ねられた土台があるからこそ、サンジとイナズマになって、またゾロとボン・クレーになって役柄で遊ぶことができるのです。
(サンジとイナズマは一人二役で中村隼人、ゾロとボン・クレー、スクアードに至っては一人三役で坂東巳之助が演じています。)
活き活きとした楽しそうな多立ち回りに心を打たれるのも、彼らが土台となる基礎を守っているからだと思います。
(しかもこのシーン、輪をかけて派手な水の効果を使っていて、水の力でより一層若いパワーを引き出すんだよな。おっさんが水に濡れてたらちょっと寂しくなっちゃうもんね!それもオイシーけどね!)
一人が何役もこなすことで、女形の存在を際立たせている
主人公のルフィは市川猿之助が演じています。が、それと同時にシャンクスもこなし、果てはハンコックまで役としてやり遂げてしまいます。
これは「役者が足りないんだな…」ということではなく、一人で何役もこなすことが歌舞伎では可能になる、また役者がそれに見合うポテンシャルを持っているということなのです。
残念ながらハンコックの登場シーンは結構映画では省かれており、じっくり見たいシーンもあったのですが、それは叶いませんでした。(舞台では早変わりなどもあったそうで…見たかったっ!)
一人一役…ではなく、主演がいくつも役をこなすのも見どころの一つと言えましょう。
歌舞伎未鑑賞の反応は予告編だけで「…うーんちょっと厳しくない?」
私の知り合いに「ワンピース歌舞伎よかったよ!」という話をし、公式サイトURLを送りましたが、帰ってきた反応は
「ビジュアルと予告編だけ見たけど、ちょっと厳しさを感じる…。」
というものでした。
ですが、これって多分一般的な感情じゃないかなと思うのです。
私がルフィやサンジの見得やボン・クレーの六方を見て
「ウワー!歌舞伎の美しさだなあーーー!」
と感じるのは、歌舞伎の様式美やきまりごとを知っている土台があるから。
なので、よほど「ワンピースが好き!」とか「よく分からんけど見に行こう!」とか「チケットもらっちゃった…」という、ある意味勇気のある人やラッキーな人でなければ、わざわざ足を運ばないんじゃないかとも思うんです。
全く歌舞伎の予備知識なく見た方って、見得や六方や多立ち回りのシーンをどう感じるのでしょうか?これは自分にはわからないので、とっても気になるところです…!
ワンピース歌舞伎で”実写化”を考える
もう一つ、ワンピースを見ていた感じたのは”漫画の実写化”についてでした。
これまで数々の作品が実写化されてきて、その度に「再現率ハンパねえ!」という反応とか「これはビミョーw」など、様々な反応がその都度あったと思います。
ですが、再現率の高い映像作品が果たして素晴らしいのかと言われれば…そうでもない。ワンピース歌舞伎は再現率が高いわけではありませんが、歌舞伎という枠組みの中で”溢れんばかりのワンピースという原作への理解と愛”に溢れた作品だと思います。
”実写化”と聞けば、原作のビジュアルに忠実に沿ったものでなくてはいけない
現在はこの考え方が主流のように感じますが、作品はコスプレショーではありません。見た目だけ完璧なビジュアル作品はコスプレショーの枠を出られない。足りないものがある。単なるコスプレショーに終わらせないためには、原作への敬意と愛と理解が不可欠です。
前回「ワンピースのテンションの高さと歌舞伎のテンションの高さは一緒。相性がいい。」と書きましたが、実はジョジョも結構相性が良いのではないかな…
と考えたりもしています。
その他映画の感想
★鑑賞直後の「ワンピース歌舞伎」の感想
★ブリジットジョーンズの日記3の感想